遺贈による寄付とは何か?概要を解説
遺贈は遺言書によって自分の財産を譲渡もしくは贈与する行為です。相続人はもちろん、相続人以外の人に対しても行うことができるため、生前に遺贈先を決めておき自分の死後に財産を寄付することもできます。今回はこのような遺贈による寄付について概要や要件を紹介します。
遺贈の概要と寄付の流れ
まずは遺贈について確認していきましょう。遺贈は遺言書によって自分の財産の全部または一部を無償で譲渡することをいい、遺言者が死亡したときに効力が発生します。主に相続人以外に財産を渡したい場合に活用され、相続人に対しては「相続させる」と記載するのが一般的です。
「A銀行の預金を遺贈する」など特定の財産を指定するものを「特定遺贈」と呼び、「財産の2分の1を遺贈する」など、財産の割合を指定するものは「包括遺贈」と呼びます。このうち寄付で活用されるのは特定遺贈となります。例えば自分の死後に「財産を特定団体の活動のために役立ててほしい」と考えたときに遺贈による寄付が活用できる場合があるのです。そのためには、まずは遺言書の内容を検討する必要があります。
また遺言書には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」がありますが、寄付を考えた場合には公正証書で遺言を作成するのがおすすめです。さらにその中で自分の死後に遺言書の内容を実行する「遺言執行者」を指定しておくことが重要になります。
【参考】遺言書があったら?遺言書の種類・効力・扱い時の注意点とは
遺言書の内容が決まったあとは、寄付をしたい団体などにその旨を知らせておきましょう。自分の死後にいきなり寄付をする旨の連絡をしても寄付を受ける側の準備が整っていない場合もあります。そのため生前に寄付する旨と財産の内容、寄付を考えるに至った経緯などを伝えておくことが必要です。そして自分の死後に遺言執行者が遺言書の内容を実行し寄付が行われることになります。
寄付できる財産と寄付先
遺贈による寄付は、個人・法人を問わず誰にでも行うことができますが、寄付先が個人の場合、その個人が受け取った財産は相続税の課税対象です。ただし「一定の個人など」が受け取った財産で要件を満たす場合には相続税はかかりません。また寄付先が「特定の公益法人」の場合、その寄付をした財産は相続税の課税対象としない特例があります。
※「一定の個人」と「要件」の例
・宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業を行う個人などが相続や遺贈によって取得した財産で公益を目的とする事業に使われることが確実なケースでは相続税はかかりません。
・個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で一定の要件を満たすケースなどがそれにあたります。なお、相続人のいずれかが引き続きその幼稚園を経営することが条件となります。
全体の課税総額が下がることになり相続人にとってもメリットがあるため、寄付を検討する場合には「寄付先が特定の公益法人、または公益を目的とする事業を行う個人に該当するかどうか」を事前に確認しておくと良いでしょう。
ただし個人が法人に寄付をした場合には、その財産を時価で譲渡したものとみなされて財産の取得時から寄付時までの値上がり益に対して譲渡所得税が課税されるため注意が必要です。(この譲渡所得税についても、要件を満たした場合には非課税となる特例があります)
寄付を検討する際の注意点
こちらは通常の相続対策と同様に考えて良いでしょう。例えばほかに相続人がいる場合には「全財産を公益法人○○に遺贈する」といった内容の遺言書であると、相続人は納得しない可能性が高いです。また、ここまで極端でなくとも各相続人の「遺留分」を侵害するような寄付の内容では、せっかくの寄付をしたいという想いが実現できなくなってしまう可能性があります。そのため相続人の遺留分にも配慮して寄付を行うことが必要です。
【参考】遺留分とは?対象者・割合・請求方法(遺留分減殺請求)を解説
また寄付をする財産ですが、不動産・株式などの現物ではなく現金・預貯金で寄付をしたほうが寄付をされる側も受け入れやすくなります。現物の財産は、換金性が低く寄付先が現金を手にするまでに時間がかかることも考えられますし、先述の通り値上がり益による譲渡税がかかる場合もあるのです。スムーズな寄付を行うためには、できるだけ現金・預貯金による寄付を検討したほうが賢明です。
このように自身の財産を死後に寄付をすることで寄付先の団体などの活動に貢献することができます。遺言書や各種税制が関係してくる他、寄付先との話し合いなども必要になってくるため、寄付を検討している場合には専門家へ相談をしてアドバイスを仰ぐことがおすすめです。