数年たって見えてきた中小企業の事業承継税制における3つのデメリット
中小企業における事業の承継に伴う税負担を軽減するために創設された事業承継税制ですが、導入から10年経った今も活発な利用は見られません。理由としては、メリットよりもデメリットが活用の足かせになっているようです。今回は、中小企業の事業承継税制活用を阻む3つのデメリットについて解説します。活用を検討する際の一助になれば幸いです。
事業承継税制は案外使い勝手が悪い
事業承継税制の始まりは、2009年度税制改正によって導入された「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予の特例」制度です。「先代の事業を引き継ぎたいが、事業用財産や自社株の引き継ぎに莫大なコストがかかるから難しい」という中小企業の経営者や個人事業主の声に応えるべく、2008年に施行された経営承継円滑化法に伴って創設されました。
事業承継税制、つまり非上場企業の自社株の相続・贈与に伴う納税の猶予制度を使うと、事業を引き継いだ後も要件を満たしていれば、納税は実質的に免除になります。その結果、中小企業の事業承継はスムーズになり、中小企業が屋台骨となっている日本経済は安泰になるはずでした。
しかし、制度の創設後「難しすぎて活用しにくい」という声が上がりました。これを受け、いくつかの改正が行われましたが、利用件数は低迷したままです。「よりシンプルに、より使いやすく」を心がけて改正が重ねられたはずなのですが、その意図は当事者である中小企業の経営者一族には届いていないようです。
事業承継税制を使った場合のデメリット
事業承継税制のどのような点が、積極的な活用を阻んでいるのでしょうか。主に以下の点で批判の声が上がっています。
制度が複雑
まず、制度そのものが複雑であることがデメリットです。事業承継税制の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 一定期限までに都道府県知事の認定を受けること
- 先代経営者は会社の代表権を持ち、かつ承継直前で議決権の50%超を有していること(贈与については過去会社の代表権を持っているが贈与時には代表から退いていること)
- 後継者が一定時期において会社の代表権を持ち、議決権の過半数を保有していること
- 会社は非上場の中小企業者であり、総収入金額・従業員がゼロでなく、かつ風俗営業会社や資産管理会社でないこと
- 猶予金額に見合う担保を提供すること
これらの要件自体が複雑ですが、実務で活用する際の要件はさらに細かくなります。すべての要件をきちんと満たしているかどうかを判断するだけでも大変です。
手続きが煩雑
実務における手続きも煩雑です。たとえば、相続で現在の事業承継税制の適用を受けるには、以下の手続きをスピーディーに行わなくてはなりません。
- 特例承継計画を都道府県庁に2018年4月1日から2023年3月31日までに提出する
- 後継者が自社株式を相続する
- 相続開始の日以後8ヵ月以内に都道府県知事の円滑化法の認定を受ける
- 相続開始の日以後10ヵ月以内に相続税の申告書を税務署に提出し担保を提供する
- 年次報告書・継続届出書を年1回、それぞれ都道府県庁と税務署に提出する
実際の相続では、他にも被相続人個人の準確定申告書の提出や遺言書の確認、相続人や相続財産の確認、遺産分割協議など様々な手続きを行います。さらに遺産分割協議が難航すれば、相続税の申告書を期限内に提出できない可能性もあります。つまり、事業承継税制を滞りなく活用するためには「十分な事前準備」と「円満な相続」が必須なのです。
猶予が打ち切りになったら一気に課税
先ほど「納税は実質的に免除」と書きましたが、これはあくまでも要件を満たしている場合です。以下のような状況になった場合、納税の猶予は打ち切られます。
- 承継後5年以内に後継者が代表者ではなくなった
- 後継者が取得した自社株を他人に譲渡をして手放してしまった
- 会社が資産管理会社に該当することとなった
- 会社が解散した
- 会社の年間収入がゼロになってしまった
- 継続届出書を提出しなかった
このような場合、猶予税額をすべて一括で納めなくてはなりません。また、猶予期間に対応する利子税も納めることになります。承継者の資金が潤沢であれば問題ありませんが、会社の売上がゼロの場合や会社解散の場合は資金不足に陥っているケースが多いので注意が必要です。ただし、業績悪化の場合の打ち切りについては納税額が減免されます。
事業承継税制の適用は慎重に
さらに、承継者自身の人生をお金で縛ってしまうというデメリットもあります。事業承継税制は事業承継に伴うお金の負担を軽減するためのものですが、その活用の前提には、承継者自身のゆるぎない承継の意志があります。そのため、「得しそうだから事業承継税制を」という使い方はできません。「事業承継は確実だが、負担をより少なくしたい」という場合に活用できるのです。
活用を検討する場合は、一時のメリットに囚われるのではなく、承継者の意思を何度も確認する、事前に専門家を交えて話し合うといった慎重さが求められます。