認知症の人が相続人になった場合の相続手続きはどうする?

相続が発生し、相続人の中に認知症の人がいた場合には遺産分割協議などはどのように行えば良いのでしょうか。相続発生後にはさまざまな手続きが必要となりますが、今回は相続人に認知症の人がいる場合の手続きの進め方や事前に行える対策などを解説します。

遺産分割協議はどのように行う?

遺産分割協議は相続人全員の合意がなければ内容が成立しません。認知症の相続人を含めて遺産分割協議を進める必要がありますが、協議を行うためには意思能力が必要です。しかし認知症の人は意思能力がないため、参加をしたとしてもその協議は無効となってしまいます。このような場合には、法定後見制度を活用して認知症の相続人に代理人を立てることが必要です。

成年後見制度には「法定後見制度」「任意後見制度」の2種類がありますが、ここでは、すでに判断能力が不十分な人を保護・支援するための「法定後見制度」の概要を解説します。

法定後見制度

1 後見
精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害等)により、判断能力が欠けているのが通常の状態にある者を保護・支援するための制度です。成年後見人が本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為を行ったり、本人が行った不利益な法律行為を後から取り消したりすることができます。

2 保佐
精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害等)により、判断能力が著しく不十分な者を保護・支援するための制度です。「お金を借りる」「保証人となる」「不動産を売買する」など法律で定められた一定の行為について保佐人の同意が必要となります。保佐人同意を得ずに行った行為については、本人または保佐人が後から取り消すことが可能です。

3 補助
軽度の精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害等)により、判断能力の不十分な者を保護・支援するための制度です。家庭裁判所の審判、特定の法律行為について家庭裁判所が選任した補助人に同意権・取消権や代理権を与えることが可能となります。

このように法定後見制度を活用すると、後見人などが本人に代わり法律行為などを行うことができますので、遺産分割協議が進むことになります。ただし後見人等は本人の利益のために代理で法律行為を行いますので、本人の相続する財産が法定相続分より少ない遺産分割の内容となった場合などに、同意をするかどうかは確実ではありません。


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遺産分割協議をせずに相続する方法も考えられるが……

遺産分割協議をせずに財産を相続する方法も考えられます。「法定相続分」で相続をすれば遺産分割協議の必要はなく、認知症の相続人がいる場合にも法定後見制度を活用して代理人を立てる必要もありません。ただし相続財産に不動産がある場合には相続人全員の共有となり、将来売却などを考えた場合には相続人全員の同意が必要となります。

そのため、やはりこの場合にも認知症の人に代理人が必要となり、法定後見制度を利用することが必要です。また法定相続分での相続の場合、税負担の軽減を考慮した遺産分割を検討することができないため、税負担が想定より大きくなってしまう可能性もあります。さらに各相続人の意向を反映できない遺産分割になるため、相続人によっては不満や不信感を持つようになり親族間の関係が悪化してしまう可能性があることは懸念材料の一つです。

事前に行える対策は?

事前に行える対策として遺言書を残しておくことが挙げられます。遺言書があれば遺産分割協議の必要がなくなり、成年後見人として代理人を立てる必要もありません。ただし不動産の名義変更など、認知症の人が行えない行為があるため、認知症の人に不動産を相続させる旨の遺言の場合にはやはり名義変更に代理人が必要です。

このように認知症の人が相続人となった場合には、本人はもちろんほかの相続人や親族にも影響やデメリットが生じる可能性があるため、通常の相続とは違った対策を検討しておくことが重要になります。 

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