相続法改正で登場した「遺留分侵害額請求権」押さえるべき2つのポイント

2019年は民法の相続に関する部分(いわゆる「相続法」)が改正になったことが注目を集めています。注目される改正の一つが遺留分請求に関するものです。今回は遺留分請求に関する改正で押さえるべき2つのポイントを解説します。

相続法改正で2019年7月から「遺留分減殺請求」が「遺留分侵害額請求権」に

2019年7月1日から改正相続法が施行されました。その一つが遺留分の請求に関するものです。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保証される遺産取得割合のことをいいます。被相続人が生前贈与や遺言で特定の相続人や第三者へ財産が引き継がれることを防ぐという役割があることも特徴の一つです。

【参考】遺留分とは?対象者・割合・請求方法(遺留分減殺請求)を解説

法定相続人の遺留分への侵害があった場合、民法では遺留分が認められる相続人が侵害者に対し遺留分を取り戻す請求を認め、相続人間の平等を図るようにしています。遺留分を取り戻す請求権は従来「遺留分減殺請求権」と呼ばれていましたが相続法の改正により2019年7月1日から「遺留分侵害額請求権」に変更されました。

「遺留分減殺請求権」と「遺留分侵害額請求権」の2つの違い

遺留分減殺請求権と遺留分侵害額請求権の目的とするところは基本的には同じです。時効と除斥期間もこれまでとは変わりなく時効については「相続開始および遺留分侵害の遺言・贈与があったことを知った日から1年以内」、除斥期間については「相続開始から10年間」となっています。ただしこれまでの遺留分減殺請求権の制度では、後述の理由から自宅の相続や事業承継が困難になっていたことへの反省から遺留分侵害額請求権は以下の2点の変更が加わりました。

違い1:金銭でのみ請求可能

遺留分減殺請求権の対象はすべての相続財産でした。つまり分割しやすい現預金に限らず分割の難しい不動産や自社株も遺留分請求の対象です。そのため遺留分減殺請求が自宅や事業用不動産などに対して行われると持分を請求者に渡すことになります。不動産を侵害者と請求者の共有状態にした結果、事業の継続が難しくなったり子や孫などの相続時にトラブルの種を残したりするなどの懸念が生じるのです。

一方、遺留分侵害額請求権はあくまでも侵害額に相当する「金銭的な補償」を侵害者に求める権利に過ぎません。請求者は不動産の共有持ち分を請求することや不動産の処分禁止の仮処分を行うことはできないので従来のような持分分割後の懸念はなくなります。

違い2:請求範囲は相続開始前10年間に限定

遺留分の請求は遺言による相続・贈与だけでなく被相続人の生前に行われた贈与で特別受益に該当するものについても行われます。そして遺留分減殺請求権の対象は、被相続人の生前に行われたすべての贈与でした。つまり相続開始の50年前に行われた生前贈与であっても遺留分の請求を行うことができたのです。

しかし法改正により遺留分侵害額請求権の対象となる生前贈与は、相続開始前10年間に行われたものに限定されることとなりました。ただし、極めて限定的なケースですが、遺留分の圧縮を目的とし10年以上前から特定の相続人への贈与が行われていたという事実が認められた場合は、例外的に10年以上にさかのぼり遺留分の請求が可能となります。 

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遺留分侵害額請求権になったことによる効果

上記の改正により遺留分の請求については今後以下のような効果が生まれるものと期待されます。

効果1:遺産分割時の1回で解決を図れる

従前は遺留分侵害の遺言や贈与の対象となった財産そのものが請求対象だったため請求対象が不動産の場合、持分請求時(遺産分割の時)だけでなく共有後にもトラブルが発生していました。不動産は単に分割しにくいだけでなく「取得や取り壊し、売却の際に共有者全員の同意が必要となる」といった運用の難しさがあります。

そのため賃貸物件が遺留分請求の対象となった場合に賃貸事業の運営に支障をきたすことなどがあったのです。しかし遺留分侵害額請求権で請求対象が財産そのものから金銭になったことにより争いは遺産分割時の1回で解決を図れるようになりました。

効果2:請求者にとっても「余計な重荷を背負わなくていい」メリット

金銭での解決が図れるようになったことでメリットを享受するのは特別受益を受けた財産の承継者だけではありません。請求する側の相続人にもメリットがあります。例えば「本当は欲しくない財産に縛られなくてよくなった」という点です。従前の制度では、特別受益の対象となった財産そのものが遺留分請求の対象でした。

遺留分を侵害された側としては、侵害されたままで放置するわけにはいかないのですが、だからといって誰もが自宅や事業用不動産の持分が欲しいわけではありません。なかには「お金がもらえればそれでいい」という人もいます。請求し持分を得られたとしてもその後にさまざまな場面で同意などが必要となれば面倒に感じることになるでしょう。

また自宅を含め不動産そのものの引き継ぎを嫌う人が増えています。「遺留分を侵害されたのは腹立たしいけど重荷になる財産はいらない」が本音の相続人も少なくないのです。遺留分侵害額請求権で請求対象が「モノ」ではなく「お金」になったことにより、こういった相続人のモヤモヤを解決しやすくなった側面があるといえるでしょう。 

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