売却できない空き家、相続放棄すれば管理の責任を逃れられるか?

日本の空き家問題は当事者および近隣住民にとって想像以上に深刻です。相続をしたものの売るに売れないために放置されているケースも少なくありません。もし数世代前から共有分割を繰り返し、所有権が散り散りになってしまっているなどの売るに売れない空き家を相続する可能性がある場合はどうすればいいのでしょうか。そこで今回は売却できない空き家を相続する際の対策について解説します。

日本の空き家の現状!相続したらどうする?

2019年4月に総務省統計局が公表した「平成30年住宅・土地統計調査」によると、2018年度の空き家数は846万戸で全体の13.6%になっています。過去の推移を見てみると1993年度448万戸(9.8%)、2003年659万戸(12.2%)、2013年820万戸(13.5%)と右肩上がりで増え続けているのが事実です。ただし空き家を相続すること自体には大きな問題があるわけではありません。

相続する物件に資産価値がある場合は以下のような運用方法を検討することができます。

  • 自分で使う
  • そのまま売る
  • 人に貸す
  • 取り壊して更地で売る
  • アパートなどに建て替える など

相続で問題になるのは、以下のような資産価値が著しく低かったり運用できなかったりする場合です。

  • 立地が悪い物件
  • 市街化調整区域にあって建て替えできない物件
  • 廃墟と化したリゾートマンションなど活用が現実的ではない物件

このような物件を相続してしまうと、「売りたくても売れない」という状況に陥る可能性があります。 

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保有しているかぎり固定資産税や管理コストがかかる

相続した物件がすぐには処分できないという場合、とりあえず持ち続けておき購入者や借りる人が現れるまで待つことも選択肢の一つです。しかし不動産は、保有しているかぎり毎年固定資産税や管理するためのコストがかかり続けます。リゾートマンションなどでは毎月の管理費もばかになりません。戸建であれば建物を解体して更地にすれば管理費用は減りますが、小規模住宅用地の優遇適用が受けられなくなるため、今度は土地の固定資産税が6倍に戻ってしまいます。

国への寄附は行政で使用目的がないかぎりできない

「国や自治体に寄附することはできないのか」と考える人もいますが、残念ながら2020年2月時点の制度では難しいでしょう。財務省のウェブサイトのQ&Aに「国に土地等を寄附したいと考えていますが、可能でしょうか」という質問があります。財務省の回答は「行政目的で使用する予定のない土地等の寄附については、受け入れていない」とのことです。

なお国有財産法第14条および同法施行令第9条の規定によると「行政で使用目的がある場合に関しては財務大臣との協議のうえ承認されれば取得手続きが行える」としています。そもそも行政で使用目的があるような土地などであれば、他に需要があると考えられるため寄付ではなく売却を検討したほうがよいかもしれません。

相続放棄も可能!相続財産管理人が選任されるまでは管理責任が残る

「相続放棄」という選択も方法の一つです。相続放棄とは、被相続人からの財産の相続を一切受け取らない手続きのことで、空き家も含めて財産のすべてを放棄することになります。他に主立った財産がないケースや資産よりも負債のほうが多いケースなら相続放棄を選ぶこともよいでしょう。ただしその場合でも空き家の管理からすぐに解放されるというわけではありません。

なぜなら民法第940条1項に「相続の放棄をした者は、放棄した財産の相続人が決まるまで、その財産の管理を継続しなければならない」とうたわれているからです。相続人全員が相続を放棄するときは、裁判所に数十万円から100万円以上の予納金を納めて弁護士や司法書士に「相続財産管理人」となってもらい財産の清算手続きを進めていくことになります。

売れる見込みのない空き家は、相続財産管理人によって国に引き取ってもらう手続きを進めることになるでしょう。つまり最終的には相続放棄によって空き家を手放すことはできるものの、その手続きをするには手間とお金と時間がかかりしばらくは空き家の管理を続ける必要があるということです。

空き家の相続の予定がありそうな人は、早めの対策を

所有不明土地など引き取り手のない不動産の増加が社会問題化しています。政府でも2018年11月時点で、既に空き家の相続問題については議論をしており「所有権放棄」「寄附」「国庫帰属」といった方法を検討中です。しかし、国としても資産価値の乏しい不動産の引き受けは余計な維持管理コストを増やすことになるため、なるべくなら避けたいところでしょう。

誰もが納得できるような解決策を見出すことは難しいのが現状です。人口減少に伴って地方の不動産価格はますます下落し、売るに売れない不動産が増えていく可能性もあります。もし今後、資産価値の乏しい空き家を相続する予定がある人は、行政や空き家関連のNPOなどに相談し早い段階から対策を考えておくと安心でしょう。

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