亡くなった人に相続人がいない「相続人不存在」

亡くなった人の財産は遺言や遺産分割等によって相続されますが、亡くなった人に法定相続人がいない「相続人不存在」の場合、その財産はどうなるのでしょうか。今回は相続人不存在の場合の、財産の行方や手続きの流れ等についてお伝えします。

「相続人不存在」となるケース

亡くなった方に法定相続人がいない場合とは、主に二つのケースが考えられます。

一つめは、そもそも法定相続人に該当する人がいないケースです。例えば、被相続人の配偶者や両親がすでに亡くなっていて子も兄弟姉妹もいない場合や、被相続人が独身で両親や兄弟姉妹が亡くなっている場合が考えられます。もし、兄弟姉妹に子、被相続人の甥や姪にあたる人がいる場合は、その人が代襲(だいしゅう)相続人となり、相続人不存在とはなりません。

【参考】祖父母よりも孫が先!「代襲相続」とは何か

二つめは、もともとは法定相続人がいて、その全員が相続権を失った場合です。考えられるケースは「相続放棄」です。相続財産に債務が多い場合等には、相続放棄が行われるケースがありますが、配偶者・子・両親等の直系尊属・兄弟姉妹の全員が相続放棄をした場合は、法定相続人が存在しないことになります。

【参考】必ずしも相続する必要はない。相続放棄とは?

また、法定相続人が刑に処せられるなどの「欠格」や、被相続人に対する虐待や侮辱などによる「廃除」によって相続権を失い、他に法定相続人がいない場合にも相続人不存在となります。

【参考】似ているようで違う「相続放棄」「相続欠格」「相続廃除」の違いとは

>>相続の専門家に無料相談する

財産の処分、管理等は誰が行うのか

このように法定相続人が存在しない場合、だれが被相続人の財産を管理するのか、ということが問題となります。このような場合に、家庭裁判所に申立てをすることにより財産の管理をする人を選任することができます。選任された人を「相続財産管理人」といいます。

例えば被相続人に債務があった場合、債権者は法定相続人がいなければ債務の返済を求めることができません。また、法定相続人が相続放棄をした場合にも、被相続人の財産を管理している場合があります。この場合、相続放棄をしているので財産を勝手に処分することができず、自分の財産ではありませんが管理義務は継続します。

民法
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

このような場合に債権者や元の法定相続人、または法定相続人ではないが被相続人の療養看護等を行っていた「特別縁故者」等から申立てが行われ、相続財産管理人が選任・官報への公告を経て、財産の管理を行うことになります。

選任・公告後の流れは主に次の通りです。選任後2ヵ月の間に相続人が現れない場合には、その後2ヵ月以上の間で債権者・受遺者がいればその人に財産が支払われます。さらに財産管理人の申立てにより、相続人を捜すためその後6ヵ月以上の間に最終的な公告を行います。

相続放棄や法定相続人がいないことがあらかじめわかっている場合には、新たな法定相続人がこの期間に現れることはほぼありません。このような期間を経て初めて、相続人がいないことが確定されます。この後、特別縁故者がいれば財産分与の申立てを行うことができ、認められた場合には財産を受け取ることができます。

上記の手続きを進める中で、財産が無くなった時点で手続きは終了します。

最終的に財産は誰のものに?

このような手続きを経てもなお、財産が残っている場合には国に帰属されることになります。

民法
(残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。

上記の前条とは、相続人を捜すための最終的な6ヵ月以上の間、公告より後の手続きを指します。全ての手続きが終わった後も財産が残っている場合には、相続財産管理人により遅延なく国庫に納められることになります。

今回お伝えしたように財産の管理・処分の手続きには多くの時間を要します。特に特別縁故者は申立てまでに長い時間がかかり、さらにその申立てが認められるかは定かではありませんので、法定相続人はいないが財産を渡したい人がいる場合には、生前に遺言書を作成しておく必要があります。 

>>相続の専門家に無料相談する